※高城未来研究所【Future Report】Vol.715(2月28日)より
今週は、デリーにいます。
インド経済の躍進が止まりません。
インドは今年日本を追い抜き、GDP(国内総生産)世界第4位の経済大国になると予測されていますが、その経済的躍進の背景には、ここ数十年でインド社会が経験した大きな構造変化がありました。
この10年、インドでは中産階級が急速に拡大し、現在は人口の約3割を占めるまで膨らみました。
この層の台頭により家計の可処分所得が増え、消費パターンに大きな変化が生まれました。
かつて生活必需品に限られていた支出が多様化し、ファッションや娯楽など非必需品への支出が増えています。
実際、豊富な中産層の存在はインドに莫大な購買力をもたらし、大量の裁量的支出(娯楽や嗜好品などに自由に使える支出)が可能になってきました。
この結果、インドは国内市場だけで経済成長を牽引できる「消費大国」としての地位を築きつつあります。
個人的には、長年各国を見渡した結果、コーヒーチェーンの出店が中産階級の拡大と連動しているとみており、インドも他ではありません。
現在、紅茶大国インドでスターバックスや自国ブランド「カフェ・コーヒー・デイ(CCD)」といったコーヒーチェーンが次々と出店を拡大しています。
その背景には、経済成長に伴うホワイトカラー・ミドルクラスの台頭と、それに合わせたライフスタイルの変化があります。
同様の現象は2000年代以降の中国でも見られました。
コーヒーは新興中産階級にとって「米国風」の洗練されたライフスタイルを象徴する飲み物となりつつあり、自著「Future of Specialty Coffee」の取材でも、今後世界でもっともコーヒー市場が伸びるのはインドだと各地で話を聞き、市場規模は2022年に約4億7800万ドルから2032年までに12億2747万ドルに成長すると予測されていました。
過去30年のインド経済成長を振り返っても、主な原動力は民間消費の拡大で、それだけ中産階級による消費増加の効果は大きく、内需主導型の成長が続いているのが、年々街角に増えるコーヒーチェーンの躍進からも伺えます。
こうしたコーヒーブームを支えているのは、主に都市部の若い世代やホワイトカラー層です。
インドでは推計4億3200万人もの人々が広義の「中産階級」に属し、彼らの可処分所得の増加によりカフェでのコーヒー購入が日常的な娯楽となりつつあり、とりわけ大卒の新社会人やオフィスワーカーの増加は顕著で、2022年には専門職・オフィス職が前年比23%増加し、彼らがカフェの主要顧客層を形成しています。
カフェは仕事や勉強、社交の「サードプレイス」として機能し始めており、インド最大のコーヒーチェーンCCDが掲げた「A lot can happen over coffee(コーヒーを飲みながら多くのことが起こりうる)」というスローガンが象徴するように、人々の交流や情報交換の場にもなっており、実際インドのスタートアップもカフェからはじまることが少なくありません。
コーヒーチェーン各社は、当初はデリーやムンバイ、バンガロールなど大都市圏に集中して出店していましたが、現在では中核都市や地方都市にも勢力を広げています。
CCDは1996年の創業以来拡大を続け、現在およそ2000店を構えています。
そのネットワークはインド243都市に及び、セルフサービス型のコーヒー販売機5万台も展開して年間2億ドル以上の売上を上げています。
このように地方都市でも若者を中心にカフェ文化が根付き始めており、コーヒーの需要が全国に広がっているのが、紅茶大国インドの現在です。
また、都市部と農村部の経済格差も徐々に変化しています。
一般に都市部のほうが収入水準が高く、一人当たり消費支出も農村部を大きく上回っていますが、その差は2000年代半ば以降縮小傾向にあり、農村にも産業が広がり所得が向上したこと、そして人々が仕事を求めて都市へ移動する「都市化」が進んだことが、都市と農村の購買力格差を緩和しています。
例えば都市部ではブランド衣料や外食、最新の電子機器に積極的に支出する傾向がありますが、農村部でも携帯電話やバイクといった耐久消費財への需要が高まり、消費市場が活性化しています。
あわせて、伝統的に質素倹約が美徳とされた消費文化も様変わりしつつあります。
かつて日本のトレンディードラマが牽引したようにメディアや富裕層のライフスタイルに触発され、若者を中心に「モダン」な消費志向が広がりました。
その影響で、食料など生活必需品が消費に占める割合は低下し、代わりにファッションやレジャー、娯楽といった非伝統的な分野への支出が増加しています。
こうして、中産階級の台頭は都市・農村を問わず人々の消費志向を変え、インド経済を下支えする強力な内需の拡大につながっているのです。
しかし、世代間の感性ギャップは、そう簡単に埋められません。
都市部に暮らし、コンピュータを片手にコーヒーを飲む若いホワイトカラーと、農村部で昔ながらのチャイを啜り新聞を読む中高年は、同じ国の住人とは思えないほどの差があります。
21世紀最大の経済大国と言われるインド。
ひとつの国として考えるには、あまり大きいと感じる今週です。
ちなみに気温は日々35度あります・・・。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.715 2月28日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


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